デシベルとは
デシベルとは、音の大きさや強さを表す単位です。私たちの耳に聞こえる音の小ささや大きさを数値で表すときに使われます。例えば、「その場所の騒音は80デシベルでした」というように使います。
音の大きさを表す単位としてのデシベルは、私たちの耳がとても小さな音から大きな音まで幅広く感じ取れることに対応するために作られました。人間の耳は、非常に小さな音から耳が痛くなるような大きな音まで感じ取ることができます。この広い範囲を扱いやすくするために、デシベルという単位が使われています。
デシベルは「dB」という記号で表されます。例えば、「60dB」と書きます。また、何の大きさを測っているかを明確にするために、「dB SPL(音圧レベル)」や「dBA(人間の聴覚特性を考慮した値)」など、後ろに別の記号が付くこともあります。
デシベルの歴史と由来
デシベルという単位の名前は、電話を発明したことで知られるアレクサンダー・グラハム・ベルにちなんで付けられました。「デシ」は10分の1を意味する接頭語で、「ベル」はグラハム・ベルの名字から来ています。つまり、デシベルは「10分の1ベル」という意味です。
この単位が使われ始めたのは1920年代からで、最初は電話回線の信号の強さを測るために米国の電話会社(ベル研究所)で開発されました。当時、電話の音声信号が距離によってどれだけ弱くなるかを測定する必要があり、その減衰(げんすい)量を表すためにベルという単位が考案されました。しかし、ベルでは数値が小さすぎて使いにくかったため、10倍した値であるデシベルが実用的な単位として広まりました。
現在、デシベルは国際単位系(SI)の一部ではありませんが、SIと併用が認められている単位です。音響工学、電気工学、通信工学など多くの分野で広く使われています。特に音の大きさを表す単位としては、世界中で標準的に使用されています。
デシベルの計算方法
デシベルは「対数スケール」という特殊な尺度を使っています。対数スケールとは、数値が10倍になるごとに一定の値(デシベルの場合は10)だけ増える尺度のことです。これは人間の感覚が音の物理的な強さに比例するのではなく、対数的に反応することに合わせた尺度です。
デシベルは基準となる値との比較によって計算されます。音の場合、基準となるのは人間がかろうじて聞こえる最も小さな音(聴覚閾値)で、その音圧は0.00002パスカル(20マイクロパスカル)とされています。この基準値に対して、測定したい音がどれだけ大きいかを対数を使って計算します。
具体的な計算式は以下のようになります:
音圧レベル(dB) = 20 × log10(測定した音圧 ÷ 基準音圧)
この式から、基準音圧(0.00002パスカル)と同じ大きさの音は0デシベルになります。これは理論上、健康な若者がかろうじて聞こえる音の大きさです。また、音圧が10倍になると20デシベル増加し、100倍になると40デシベル増加します。このように、デシベル値は音圧の2乗(つまり音のエネルギー)が10倍になるごとに10デシベル増加する特性があります。
デシベルの種類と用途
デシベルには様々な種類があり、何を測定するかによって異なる表記が使われます。音響分野における主なデシベルの種類は以下の通りです。
音圧レベル(dB SPL)は、最も基本的なデシベルの表し方で、先ほど説明した基準音圧(0.00002パスカル)との比較によって計算されます。単に「dB」と表記されることも多いですが、厳密には何の大きさを測っているかを示すために「SPL(Sound Pressure Level:音圧レベル)」という言葉が付きます。
人間の耳は、同じ音圧でも周波数(音の高さ)によって感じる大きさが異なります。特に低い音や高い音は実際の音圧より小さく感じます。この人間の聴覚特性を考慮して補正を加えたものが聴感補正デシベルです。代表的なものにA特性(dBA)があり、これは人間の耳の感度に近い形で測定値を補正したものです。騒音の測定や規制値には通常このA特性デシベルが使われます。その他にも、C特性(dBC)など、異なる周波数特性を持つ補正方法があります。
音響以外の分野でもデシベルは広く使われています。電気工学では電力や電圧の比を表すのにデシベルが使われ、通信工学では信号の強さや信号対雑音比(SN比)を表す単位として使われます。また、地震学では地震の強さを表す単位として使われることもあります。このように、何らかの量の比率を対数スケールで表現する必要がある様々な分野でデシベルが活用されています。
日常生活におけるデシベル
私たちの日常生活では、様々な大きさの音に囲まれています。身近な音のデシベル値を知ることで、音の大きさについての感覚をつかむことができます。
音の種類 | おおよそのデシベル値 | 感じ方や影響 |
---|---|---|
木の葉のそよぎ | 10~20dB | 非常に静か、ほとんど聞こえない |
ささやき声 | 30dB | 静かな図書館程度 |
静かな住宅地の昼間 | 40~45dB | 静かな環境 |
普通の会話 | 50~60dB | 普通の大きさ |
掃除機の音 | 65~70dB | やや大きく感じる |
主要道路沿いの騒音 | 70~75dB | うるさく感じ始める |
電車の車内 | 75~80dB | 大きい、長時間だと疲れる |
犬の吠える声(近距離) | 80~85dB | 非常に大きい |
大型トラックの近く | 85~90dB | 耳に痛みを感じることもある |
電車が通過する際のガード下 | 90~95dB | 耳障りで不快 |
救急車のサイレン(近距離) | 100~110dB | 非常に大きく、耳が痛い |
ロックコンサート前列 | 110~120dB | 耳が痛く、短時間でも聴覚障害の恐れ |
ジェット機のエンジン近く | 130~140dB | 痛みの閾値、即時に聴覚障害の危険 |
日本では環境基準として、住宅地域の昼間は55dB以下、夜間は45dB以下という目安が設けられています。また、工場や建設現場などから発生する騒音については、騒音規制法により地域や時間帯ごとに細かく規制値が定められています。
騒音レベルの目安としては、一般的に70dBを超えると「うるさい」と感じる人が増え、80dBを超えると会話が困難になり始めます。85dBを超える環境で長時間過ごすと聴覚障害のリスクが高まるとされ、労働環境では防音対策や耳栓の使用が推奨されます。100dBを超える音は短時間でも耳に負担がかかり、120dBを超えると痛みを感じ、即時に聴覚に損傷を与える可能性があります。
デシベルと人間の聴覚
人間の聴覚は非常に優れた感覚システムで、とても小さな音から大きな音まで幅広く感知することができます。健康な若者の可聴域(聞くことができる音の範囲)は、周波数でいうと約20Hzから20,000Hz(20kHz)とされています。また、音の大きさでいうと、かろうじて聞こえる音(聴覚閾値)が0dB、痛みを感じる音(痛覚閾値)が約120dBとされています。
人間の音の大きさの感じ方は、物理的な音の強さ(音圧)に比例しているわけではありません。実際には、音圧が2倍になっても、人間が感じる大きさは2倍にはなりません。音圧が10倍(+20dB)になると、およそ2倍の大きさに感じると言われています。また、音圧が100倍(+40dB)になると、およそ4倍の大きさに感じます。このように人間の感覚は対数的な特性を持っており、デシベルという単位はこの特性に合わせて考案されました。
長時間大きな音にさらされると、一時的または永続的な聴覚障害を引き起こす可能性があります。85dB以上の音に長時間さらされると、徐々に聴力が低下する可能性があります。これを騒音性難聴と呼びます。また、非常に大きな音(120dB以上)を一度に浴びると、即座に聴覚障害を引き起こす可能性があります。これを音響外傷と呼びます。
年齢とともに高い周波数の音が聞こえにくくなる「老人性難聴」も一般的です。これは加齢によって内耳の有毛細胞が徐々に失われることが原因です。また、耳鳴りも聴覚に関連する症状で、外部に音源がないのに音が聞こえる感覚です。耳鳴りは一時的なこともありますが、大きな音への暴露や加齢などによって慢性化することもあります。
デシベルの測定方法
デシベルを正確に測定するには、専用の機器である「騒音計」を使用します。騒音計には様々な種類がありますが、基本的な仕組みは音を拾うマイクと、その信号を処理して数値化する回路から成り立っています。
騒音計には精度によって「普通騒音計(クラス2)」と「精密騒音計(クラス1)」があります。一般的な環境測定には普通騒音計で十分ですが、法的な証拠として使用する場合や研究目的の場合は精密騒音計が必要になることがあります。また、測定する対象によって「一般的な環境騒音を測定するもの」「労働環境の騒音を測定するもの」「建物の遮音性能を測定するもの」など、特化した騒音計もあります。
騒音計で測定を行う際には、いくつかの注意点があります。まず、マイクの向きや位置が重要です。一般的には音源に向けて設置しますが、測定の目的によっては人間の耳の位置に相当する場所に設置することもあります。また、風の影響を受けやすいため、屋外での測定では防風スクリーンを使用します。さらに、測定者自身の反射音や服の擦れる音なども誤差の原因になるため、騒音計をしっかりと固定して測定者は離れた場所で操作することが望ましいです。
測定した音は、さらに詳しく分析することができます。周波数分析では、音を周波数ごとに分解して、どの周波数帯の音がどれくらいの大きさで含まれているかを調べます。これにより、例えば低周波音による環境問題や、特定の機械の異常診断などが可能になります。また、時間変動する騒音の場合は、「等価騒音レベル(LAeq)」と呼ばれる一定時間の平均値や、「時間率騒音レベル(LA95など)」と呼ばれる統計的な値を用いて評価することがあります。
デシベルに関する法規制
日本では、騒音に関する様々な法規制があります。主なものとして「騒音規制法」「環境基本法に基づく環境基準」「労働安全衛生法」などがあります。
騒音規制法では、工場や建設現場などから発生する騒音に対して規制基準を設けています。この基準は地域の特性(住宅地域、商業地域、工業地域など)や時間帯(朝、昼、夕、夜)によって異なります。例えば、住宅地域での工場騒音の規制基準は昼間で50~60dB、夜間で40~50dB程度となっています。また、建設作業についても同様に規制があり、特に住宅地域での夜間工事は厳しく制限されています。
環境基本法に基づく騒音に係る環境基準では、住居の周辺や道路沿いなどの生活環境を保全するための目標値が定められています。例えば、一般の住宅地域では昼間(午前6時から午後10時)が55dB以下、夜間(午後10時から午前6時)が45dB以下とされています。これは努力目標であり、法的な規制力はありませんが、都市計画や環境アセスメントなどの指針となります。
- 住宅地域(第一種低層住居専用地域など):昼間55dB以下、夜間45dB以下
- 住宅地域・商業地域の混在する地域:昼間60dB以下、夜間50dB以下
- 商業地域・工業地域など:昼間65dB以下、夜間60dB以下
- 幹線道路沿道:昼間70dB以下、夜間65dB以下
労働安全衛生法では、作業場での騒音から労働者の健康を守るための規定があります。「騒音障害防止のためのガイドライン」では、1日8時間の労働時間において85dBを超える騒音にさらされる場合、事業者は防音対策や耳栓の提供、定期的な聴力検査などの措置を講じる必要があるとされています。また、90dBを超える場合には、騒音の発生源対策や作業時間の制限などのより厳しい対策が求められます。
国際的には、世界保健機関(WHO)が環境騒音のガイドラインを公表しており、各国の法規制の参考になっています。また、労働環境については国際標準化機構(ISO)や米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)などがガイドラインを示しています。日本の規制値は国際的な水準と比較してもおおむね同等か、場合によってはより厳しい基準を設定しているといえます。