目次
石綿とは
石綿は、天然に産出する繊維状の鉱物です。耐熱性や断熱性に優れ、丈夫で変形しにくい性質を持っています。
別名・英語表記
石綿は「アスベスト」とも呼ばれています。英語では「Asbestos」と表記します。「アスベスト」という言葉は、ギリシャ語で「消えない」「不滅の」という意味を持つ「asbestos」に由来します。
主な特徴と性質
石綿には以下のような特徴があります:
特徴 | 説明 |
---|---|
耐熱性 | 1,000度以上の高温でも燃えず、形を保ちます |
断熱性 | 熱を通しにくく、保温や断熱に適しています |
電気絶縁性 | 電気を通しにくい性質があります |
耐摩耗性 | こすれても簡単には壊れない、丈夫な性質です |
防音性 | 音を通しにくく、防音材として効果があります |
柔軟性 | 細かい繊維に分けることができ、布のように加工できます |
このような特徴から、建物の材料や機械の部品として広く使用されてきました。しかし、繊維が極めて細かく、人体に悪影響を及ぼすことが分かり、現在では新たな使用が禁止されています。
石綿の種類
石綿は大きく6種類に分けられます。色や形の特徴から、色で区別して呼ばれることが多いです。
クリソタイル(白石綿)
白石綿は、石綿の中で最も多く使われてきた種類です。繊維が柔らかく、糸のように細かく裂くことができます。この性質を活かして、布や建材の材料として使われてきました。他の種類の石綿と比べると、人体への害は少ないとされていますが、それでも危険な物質です。
アモサイト(茶石綿)
茶色がかった針状の繊維を持つ石綿です。熱に強く、酸にも強い性質があります。主に建物の断熱材や防火材として使われてきました。白石綿よりも人体への害が強いことが分かっています。
クロシドライト(青石綿)
青みがかった繊維を持つ石綿です。全ての種類の中で最も危険とされています。とても細い繊維で、体内に入り込みやすい特徴があります。耐酸性が高く、機械の部品などに使われていました。
その他の石綿
名称 | 特徴 | 主な用途 |
---|---|---|
トレモライト | 白~灰色の繊維状。他の石綿に不純物として含まれることがある | 単独での使用は少なく、他の石綿に混ざって使用 |
アンソフィライト | 灰色~茶色の繊維状。耐熱性が高い | 断熱材、建材として使用 |
アクチノライト | 緑色がかった繊維状。光沢がある | 建材の原料として使用 |
これら6種類の石綿は、全て健康に害があることが分かっており、現在は新しい使用が法律で禁止されています。ただし、古い建物には使われている可能性があるため、取り壊しや改修の際には注意が必要です。
使用用途と歴史
主な使用用途
石綿は、その優れた性質から様々な製品に使用されてきました。主な使用場所は建物や工場設備です。
分類 | 使用例 |
---|---|
建物の内装材 | 天井材、壁材、床材、防火カーテン |
建物の外装材 | 屋根材、外壁材、雨どい |
設備関係 | 配管、煙突、貯水タンク、ボイラーの断熱材 |
工業製品 | ブレーキパッド、機械の部品、電気製品の絶縁材 |
使用が始まった時期
日本での石綿の使用は、1890年代から始まりました。本格的な使用は1950年代以降で、高度経済成長期に入ると建設資材として大量に使われるようになりました。
年代 | 出来事 |
---|---|
1890年代 | 国内での使用開始。主に工場の機械部品として |
1950年代 | 建設資材としての使用が増加 |
1960-70年代 | 使用量が急増。建築材料の多くに使用 |
1980年代 | 年間約30万トンの使用量でピークを迎える |
使用規制の経緯
石綿による健康被害が明らかになり、段階的に使用が規制されていきました。
年 | 規制内容 |
---|---|
1975年 | 吹き付け石綿の使用原則禁止 |
1995年 | 青石綿と茶石綿の使用禁止 |
2004年 | 石綿を含む建材の製造禁止 |
2006年 | 原則として全ての石綿の製造、使用などを禁止 |
2012年 | 一部の例外製品を除き、全面禁止 |
現在は新しい建物や製品への使用は禁止されていますが、古い建物には依然として石綿が残っています。そのため、建物の解体や改修時には特別な注意と対策が必要です。
健康への影響
石綿による主な疾病
石綿の繊維を吸い込むことで、様々な病気を引き起こす可能性があります。特に肺や胸の病気が多く見られます。
病名 | 症状 | 特徴 |
---|---|---|
中皮腫 | 胸や腹の痛み、息切れ、体重減少 | 肺や腹を覆う膜にできるがん。治療が難しい |
肺がん | せき、たん、胸の痛み、息切れ | 喫煙との組み合わせで発症リスクが高まる |
石綿肺 | 息切れ、せき、呼吸困難 | 肺が硬くなり、呼吸が困難になる |
胸膜肥厚 | 息切れ、胸の痛み | 肺を覆う膜が厚くなり、肺の動きが悪くなる |
潜伏期間
石綿による病気は、石綿を吸い込んでから病気が現れるまでに長い時間がかかることが特徴です。
病気の種類 | 潜伏期間 |
---|---|
中皮腫 | 20~50年 |
肺がん | 15~40年 |
石綿肺 | 10~20年 |
胸膜肥厚 | 15~30年 |
発症リスク要因
石綿による病気の発症リスクは、以下の要因によって高まります:
リスク要因 | 説明 |
---|---|
石綿の量 | 吸い込んだ石綿の量が多いほど、発症リスクが高くなります |
作業期間 | 石綿を扱う作業を長期間行うほど、リスクが増加します |
石綿の種類 | 青石綿は特に危険性が高く、より少ない量でも発症の可能性があります |
喫煙 | 特に肺がんの場合、喫煙との組み合わせで発症リスクが大きく高まります |
作業環境 | 換気が悪い場所での作業は、石綿を吸い込むリスクが高くなります |
防護対策 | マスクなどの防護具を使用しない作業は、リスクが高くなります |
一度でも石綿を吸い込むと発症の可能性があり、現在の健康状態が良好でも、将来発症する可能性があります。そのため、定期的な健康診断を受けることが重要です。
法規制と対策
石綿障害予防規則
石綿障害予防規則は、作業者の健康を守るための法律です。この規則では、石綿を扱う作業について細かい決まりが定められています。
規制内容 | 具体的な対策 |
---|---|
事前調査の義務 | 工事開始前に石綿の有無を専門家が調べる |
作業計画の作成 | 作業の手順や対策を事前に文書で決める |
作業者の教育 | 石綿の危険性や正しい作業方法を教える |
記録の保存 | 作業内容や健康診断の記録を40年間保管 |
建材の使用規制
建物に使用する材料について、厳しい規制が設けられています。
時期 | 規制内容 |
---|---|
2004年10月 | 石綿を含む建材の製造禁止 |
2006年9月 | 石綿0.1%超の建材の使用禁止 |
現在 | 新築建物での石綿使用は全面禁止 |
除去・解体作業の規制
建物の解体や改修工事には、特別な規制があります。
作業区分 | 必要な対策 |
---|---|
作業前の準備 |
・立入禁止の表示 ・作業場所の隔離 ・集じん装置の設置 |
作業中の対策 |
・専用の防護服の着用 ・特殊マスクの使用 ・湿潤化による粉じん防止 |
作業後の処理 |
・特別な方法での廃棄 ・作業場所の清掃 ・器具の洗浄 |
健康診断の実施
石綿を扱う作業者には、定期的な健康診断が義務付けられています。
区分 | 内容 |
---|---|
実施時期 |
・雇入れ時 ・配置換え時 ・その後6か月ごと |
検査項目 |
・業務歴の確認 ・石綿へのばく露歴の確認 ・自覚症状及び他覚症状の有無 ・胸部X線検査 ・胸部CT検査(医師が必要と認めた場合) ・肺機能検査 |
記録の保管 |
・検査結果は40年間保存 ・労働者が請求した場合は記録の写しを交付 |
これらの規制は、作業者と周辺住民の健康を守るために設けられています。違反した場合は、法律に基づく罰則が適用されます。
適切な処理方法
石綿含有建材の見分け方
建物に使われている材料に石綿が含まれているかどうかを見分けるには、以下の方法があります。
確認方法 | 内容 |
---|---|
建築年による判断 |
・2006年以前の建物は要注意 ・1970-1990年代の建物は特に注意が必要 |
建材の表示確認 |
・製品に「ノンアス」表示があれば石綿なし ・「A」マークがある場合は石綿あり |
専門家による調査 |
・目視による確認 ・専門機関での分析 ・建築図面での確認 |
処理時の注意点
石綿含有建材を処理する際は、以下の点に注意が必要です。
注意項目 | 具体的な対策 |
---|---|
作業場所の管理 |
・作業区域をビニールシートで完全に囲む ・負圧除じん装置の設置 ・立入禁止区域の設定 ・警告表示の設置 |
作業者の保護 |
・専用の防護服の着用 ・電動ファン付き呼吸用保護具の使用 ・二重手袋の着用 ・専用の長靴の使用 |
作業方法 |
・材料を濡らして粉じんを防ぐ ・できるだけ原形のまま取り外す ・破砕や切断を最小限にする ・電動工具の使用を控える |
廃棄物処理の手順
石綿含有廃棄物は特別な方法で処理する必要があります。
手順 | 実施内容 |
---|---|
分別 |
・石綿含有物と非含有物を分ける ・種類ごとに分別する ・他の廃棄物と混ぜない |
梱包 |
・厚さ0.15mm以上の丈夫な袋を使用 ・二重梱包する ・空気を抜いて密封する ・「石綿含有産業廃棄物」と表示 |
保管 |
・雨や風にさらされない場所で保管 ・保管場所に表示をする ・関係者以外が触れない場所で管理 |
運搬 |
・許可を持つ運搬業者に依頼 ・荷台をシートで覆う ・運搬中の破損を防ぐ ・積み降ろしは丁寧に行う |
処分 |
・専門の処分場で処理 ・マニフェストの発行と保管 ・処分完了の確認 ・記録の保存(5年間) |
これらの処理は専門の業者が行う必要があります。一般の人が勝手に処理すると法律違反になるだけでなく、健康被害の原因になる可能性があります。処理が必要な場合は、必ず専門業者に相談してください。